No.126
神山純一
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 私がそもそも、この業界といいますか、作曲・編曲家になったのは思いもよらぬきっかけからでした。ちょうど大学生の頃、カレッジフォークとかカレッジポップスという、アマチュアの学生が作った曲がレコードになってラジオなどで流れるという、あの頃の学生からしたら考えられないような事があり、学生が作った曲が、他にラジオで流れる曲(歌謡曲など)と遜色も無く聞こえる事にも驚きました。(歌は上手くない、曲も単純・・などと後から思えば色々あるのですが。)
 それがとても楽しそうな事に思えて、その頃盛んだったあちこちのアマチュアのオリジナルソングコンテストに応募し、うまく行って東芝からレコードになり、それこそ、普通の人?は入った事などないレコーディングスタジオでの録音を経験しました。
 色々な楽器の演奏者が集まり、アマチュアの学生(私)が作った曲が、約30人くらいの方々のそれぞれの楽器の演奏で、それは豪華に美しい響きに聞こえました。(末期の2チャンネル・アナログ同時録音の頃ですから、演奏は全員同時。)
 余談ですが最近ではあの頃の、録音テープを斜めに切って貼り合わせて編集なんていう話は、何の事だか分からなくなってゆくのだろうか、とも思っています。
 そして、その時に集まった演奏者の方々はNHK交響楽団ではないとしても、ひとつのオーケストラだと思っていたので、指揮をしておられた方は指揮者だと思っていました。
 しかし後でそれが編曲者で、その方が全ての楽器のパートを書くのだという事が分かり、「口ずさんだ、メロディーだけだった」ものが、編曲される事で、豪華な、まるで別の物のような作品に仕上がる事の醍醐味に興味を持って編曲の道に入ったわけですが、編曲の理屈が分かって最初にあこがれた響きが、フランクシナトラのバックの大編成の、弦とビッグバンドの入ったネルソン・リドル編曲のもので、日本ではそういう規模のバックで歌手が歌うというのはそう頻繁に有るわけではない、という事情が分かってくるのはそれから暫く後の事です。
 最近の編曲というと、リズムの部分がきわだち、そのあたりのアイディア、歌詞の付け方、コード進行、メロディーの展開、歌う方々の強い個性が何より売れるために大事な事になってきている気がします。(声が良い、とかいうよりも。)
 「あの曲の編曲が良い・・」なんて悠長な事を言っている時代ではなくなったのかもしれませんが、弦の編曲、ビッグバンドの編曲など、複雑な組み物を作って行くような面白さ、難しさ、技の多様さと深さは「名工の技」「奥義」のようなものかもしれません。そしてそれは絶えることなく「伝承」されていって欲しいものです。
 このように書いてきて読み返してみると、年寄りの愚痴みたいになってしまいました。どうぞ読み流して下さい。


◎神山純一(かみやまじゅんいち) Profile
テレビ番組音楽:TBS・ニュースの森テーマ音楽・番組音楽、名作の風景等。
CM音楽:サントリー・響、JR東日本、資生堂オプチューン、アサヒビール等。
作曲・編曲作品:高橋真梨子、天童よしみ、菊池桃子、南こうせつ等。
CD:日野原重明先生、鎌田實先生等との「心と身体に良い効果のある音楽」シリーズ(ビクター)等。
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