NO.45 2007.4.24

土井宏紀

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ミュージックショップに行く度に、
一生かかっても聴ききれない量のCDが並んでいるのを見て、くらくらします。

単なる音楽好きとして「まだ知らない音楽がこんなにあるよ」
という幸せにくらくら。するのと、
作り手として「こんなに聴きたい曲があるのに、このうえ自分で作る意味はあるんだろうか?」
という疑念にくらくら、です。

こういう話は音楽に限らず、創作分野全般で昔からありますよね。
デジタルアーカイブによって手軽に過去の厖大な音源にアクセスできるようになり、
音楽についてのこの問題は、ちょっと進んだフェイズに入ったような気がします。

最新の音源も、30年前の音源も、全て等価な現在、
自分が作る曲は果たして「換えがきかないもの」になっているでしょうか。

ピアノでもギターでもなく、
「My adidas のシューレースを抜く」ところから自分の音楽が始まった僕にとって、
「新しい音楽は常に正しい」というスローガンは
数少ない信条のひとつで、同時に評価軸のひとつだったりします。
新しい物を産み出そうとジタバタしているシーンの面白さ、
それにコミットしているときの、あの何とも言えない高揚感こそが、
音楽を作り続けていく事への最大の動機になっています。

仕事として音楽を作る場合、多くは予算、時間、クライアントの要望、
その他いろいろな条件とのトレードオフになって、
「確実に塁に出る」事が最優先になったりもするわけですけれど、
「ホームラン打っていいよ」ってサインが出たときに、
躊躇しないで大振りして「換えがきかないもの」を狙えるように、
自分の欲しいものは何か、をクリアにしていたいですね。
空振りしても懲りないタフさも、できれば。

「好きな事を仕事にするのは大変でしょう」と訊かれる事があります。
だけど人間「やなこと」はそうそう続かないもんですよね。
何があっても好きでいつづけられる事が、いちばんの資質じゃないかと思います。


◎土井宏紀(どいひろのり) Profile
1992年『世にも奇妙な物語』(フジテレビ)で音楽家としてスタート
以降、サウンドトラック、CMを中心に活動中。

『金田一少年の事件簿』(日本テレビ)『Jelly in the Merry-go-round』(テレビ東京)
『La cuisine』(フジテレビ)『パパ・トールド・ミー』(NHK)
『NHKスペシャル・地球大進化』『NHKスペシャル・テクノクライシス』
『イノセントワールド』(下山天監督)『GHOSTSOUP』(岩井俊二監督)など


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