NO.32 2004.10.20

佐橋俊彦

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  「東京ディズニー・ランド」のテーマ・パークのアレンジでこの世界に入ってから、速くも15年、作編曲家として考えられる殆どの仕事をさせていただき、最近ではアニメやドラマのサウンド・トラック(劇伴といも言います)の仕事が90%以上を占めている。
  二十歳になった頃007の「私を愛したスパイ」を映画館に観にいって、なんとなく「こんな仕事(カッコイイ映画にカッコイイ音楽)にかかわりたいなー」と思っていたのだから現在の状態は夢が叶ったと言える。
実際仕事をしていても劇伴を作曲するのは楽しい。特に映画やドラマ特番のように映像が出来ていて、それにピッタリ合わせて作れる時はかなりマニアな気分になってしまう。しかし、この劇伴、請け負った時のプレッシャーもひときわ大きい。その曲数が尋常でない時が多く、とくにSFアニメや特撮系は50曲を超える音楽メニューが必要。監督やプロデューサーと打ち合わせをして、自分なりに全体の音楽的なコンセプトを決め(僕の場合これにけっこう時間がかる)、具体的にモチーフを用意して、「さあスコアーをかくぞ!」となった時に、曲数÷日数=悪寒(汗)という場合がほとんど。まー「手放しで楽しい仕事」などと言うものはこの世の中に存在しないと思っているし、他の劇伴を書いている作曲家も条件は同じ、と思って全速力で乗り切るわけだけれど、アシスタントと共に修羅場の戦場を彷徨っている時はけっこう苦しい。かといって、ここで気を抜いて敵前逃亡などをしてしまうと仕上がりに歴然と差が出て、あとあとスタジオ行って音出した時に「なんとも言えないイヤ〜な気分」を味合うことになるのでこれは何が何でも避けたい。でも締め切りは刻一刻と迫ってくる。なんともスリリングな数日を過ごさなければならない現実、これがこの仕事の唯一大変なところで、これにさえ耐えられれば劇伴の作曲自体には色々な所に旅に行くような楽しさがある。
  実際、スタジオで録音を終えて帰宅した時の気分は、まさに同じ日数の旅をして家路についた時のそれと似ている。
手掛けている仕事の脚本を読みはじめ、コンテや資料を見ながら、脚本家や監督たちが歩いた道を辿る。彼等の見た世界を発見するためにこっちも歩き回って、そこで聞いた音を持ち帰る。あるいは彼等が発見し損なったものを見つけてくる。もちろんいつも上手くゆくとはかぎらず、道に迷ってしまったり、事故や何かで予定道理に旅が進まなかったり。はたまた身体を壊すなど。いい気分でお土産持って帰って来られる時もあれば、ヘトヘトになって「あーあ、こんなとこくるんじゃなかった」なんて時もある。でもね!確実になにかが出来上がることは確か。と言うかプロの作曲家なので必ず何か持って帰ってこなくてはいけないのだけど、極上のお土産を持ち帰れたときはハリウッド映画の主人公が危機を乗り越えた時のように嬉しい。ちょとオーバーか?でも根が素直な性格なのでその位の気分にはなってしまう。一年に何度かは・・・・ 。
  今年の初めに、考えるところがあって初めての長期休暇をとった。我がままな願望を所属事務所も快く理解してくれてスケジュール調整をしてくれたので、かなりの期間なにもせずに過ごした。母子家庭で育って経済的に裕福ではなかったこともあり、学生時代からいつもなにか仕事をしていたから、こんな休みはこれまでの人生にはなかった。音楽から離れて写真を撮って歩いたり、映画を見たりしているうちに一時システムがダウンしたような体験をした。まさにリセットだ。そしてアップ・デートを経て再び仕事に、もちろん以前と変わらないペースで『作曲の旅』を続けているが、以前より少し「良いお土産」のありかを見つけられるようになれたような気がしている。

★プロフィール


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