NO.107 2019.12.4

船山基紀

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 あなたの音楽の出発点は?と聞かれれば、私は迷わずこの学校の名前を挙げるだろう。
東京都中野区立谷戸小学校。

 先日、中野サンプラザホールに行った折、小学生の頃が懐かしくなって回り道をしてみた。登下校の道を辿ってみたのだが、友達とワイワイ通った道が、あまりにも狭くてびっくりしてしまった。かつての母校の佇まいは、私が通っていた頃の記憶とそれほど差がなく、当時の思い出が呼び起こされ感慨深いものがあった。
 この学び舎で私は4年生からシンガーソングライターのイルカさんと同級生であった。そして高学年になると二人とも音楽クラブに所属し、卒業まで同じ釜の飯を食う仲?であったのである。


1960年代中期といえばまさに高度成長期の真っ只中。サラリーマン家庭だった我が家でも、教育熱心だった母の進学熱が高まり、音楽なんかやっていないで勉強!勉強!と言われ続けていた。
 そんな毎日の救いは、家族が寝静まった後にこっそり聴くラジオの深夜放送やFENのTOP40
勉強!勉強!と言われれば言われるほど、Pops音楽への傾倒は深まっていったのである。

 他の同級生男子と違って、私は音楽の授業が大好きだった。
6年生になって間もなくこの大好きな音楽の授業で、今でも忘れられない出来事がおこるのである。
音楽の先生は高野先生という、とても明るくて子供達には人気のある先生だった。ある日の授業で、おもむろに赤い箱から小さな楽器を取り出すと、それは一見縦笛なのだが、わずかに最低音つまり小指の位置に半音用のキーがついている。後にこのキーはクラリネットのように全指に付くようになったのだが、この時は初代モデルゆえ、最低音のCis用キーのみ。それにクラリネットのマウスピースがついて、発音するようになっている。冗談のような楽器であったが、それが初めて目にした「ブッシュネット」だった。小6の私は「キーがついていておまけに、クラリネットみたいな歌口がついてる!僕だって吹けるかもしれない、本物の楽器だ!」とひどく興奮した。続いて先生は「これ難しいんだけどなぁ・・・」とおっしゃりながら、リードを濡らし、リガチャーを慎重にはめ、マウスピースとリードの間隔を慎重に見極め、やおらほっぺたをパンパンに膨らませたかと思うと、真っ赤な顔でいきなり息をマウスピースに吹き込んだ!
わかる方にはわかると思うのだが、多分説明書には「アンブッシャー」に関する正確な記述はなかったと思われ、その次の瞬間「ピ~~~~~~~!!!」と凄まじいリードミス!
同級生はみんな耳を塞いで、転げ回るやつ、飛び上がるやつ、とにかくクラス全員が爆笑の渦!先生もバツが悪かったのだろう、「ごめん、ごめん!」と照れ笑い。
そんな騒ぎの中、私一人はそのブッシュネットに釘付けになり、雷に撃たれたかのようにその場で茫然自失。「これだ、これだ!僕はこれがやりたいんだ~~~!」
 この後ほどなくして親を口説き落として、ブッシュネットを手に入れたのだが、実際手にしてみると、当時夕方になると回ってくる豆腐屋さんのラッパのような音しか出ないことに不満がつのり、次第に熱は冷めていくのであった。が、、、その冷めた熱量を、中学生になったら絶対本物のクラリネットを吹く!という希望に転嫁できたことは、この後の私の音楽人生において大きなはじめの一歩であったと思う。
 そんなこんなの私の音楽人生半世紀(いえ、反省記!)をこの程リットーミュージックから、1冊の本にしていただきました。そう、私の師匠、萩田光雄先生の「ヒット曲の料理人」の第2弾として「ヒット曲の料理人 船山基紀の時代」が刊行の運びとなりました。
 あの訳の分からないイントロを作る船山基紀は、いったいどれだけ音楽というものを理解しているんだ!と憤慨なされている諸先輩方、決して船山基紀のようなアレンジをしたいとは思わないのですがぁ~これからアレンジってどうやっていったらいいんでしょう?という謙虚な後輩の方々、必見です!


  『ヒット曲の料理人
  編曲家・船山基紀の時代』
  著 船山基紀
  発売日 2019年10月10日
  仕様 A5判
  ISBNコード 9784845634293
  定価:2,000円(税別)


◎船山基紀(ふなやまもとき) Profile
幼い頃から譜面と地図が大好きで、学生時代は、早稲田大学のハイソサエティ・オーケストラ部に所属しサックス奏者として活動。アルバイトで始めたヤマハ音楽財団のポピュラーソングコンテストの仕事で編曲の基礎を学ぶ。'74年よりフリーの作編曲家として本格的に活動を開始、'77年には沢田研二の「勝手にしやがれ」で日本レコード大賞を受賞。中島みゆきの「悪女」、五輪真弓の「恋人よ」、渡辺真知子「かもめが飛んだ日」などニューミュージックを代表する作品を次々と手がけていく。

'81年から2年間、アメリカのLAに音楽活動の拠点を置き、そこで出会った最新鋭のデジタル・シンセサイザー「Fairlight CMI」を日本に導入。コンピュータを使った新しいスタイルのサウンドで、WINK、中山美穂、荻野目洋子、森川由加里など、80年代アイドルの全盛期を築く。特に筒美京平作曲の編曲を一手に行い、レコード大賞を始め数々の賞を受賞した。

また、華やかにショウアップされたジャニーズ作品も船山基紀のサウンドと言って過言ではない。80年代の田原俊彦、少年隊に始まり、TOKIO、SMAP、Kinki Kids、嵐、Sexy Zone、A.B.C-Zなど、歴代のジャニーズグループの編曲を数多く掛けてきた。舞台では、「滝沢革命(滝沢秀明)」「Shock(堂本光一)」「Playzone(少年隊)」など、ジャニーズミュージカルの代表作の音楽制作も担当している。2015年には、ジャニーズ作品の集大成としてジャニーズのトップアーティスト、近藤真彦の35周年記念アルバムの編曲を手掛けた。

その他の実績として、ディズニーのオフィシャル編曲家としての活動も注目される。90年代には歴代のディズニー映画の名作から名曲44曲を編曲し、オーケストラの編成でインストルメンタルとして収録、ポニーキャニオン・レコードよりCD発売する。その作品は、高い評価を受けディズニー・オーケストラコンサートがフジTVで番組化された。
2016年には、全日本吹奏楽コンクールで活躍している現役吹奏楽部の高校生たちが演奏した、ディズニー公認のアルバム「ブラバン・ディズニー」の全曲をプロデュースし、エイベックスよりCD発売。

その他の注目すべき受賞作として、'00年には資生堂ラジオCM「TAPHY」でACC(全日本CM広告連盟)作曲賞を受賞。音楽座ミュージカル「アイ・ラブ・坊ちゃん」の作編曲を担当し、第1回読売演劇大賞を受賞する。2012年には石原裕次郎の名曲をカバーした舘ひろしのアルバム「HIROSHI TACHI sings YUJIRO」でレコード大賞企画賞を受賞。


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