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中西長谷雄

ロサンゼルス留学記(その2)

私は音大ではない四年制の大学を卒業しているのですが、十数年前留学を考える前に 主だった日本の音楽学校に正規の音楽教育を受けられるか問い合わせて回ったことが あります。結果は全てダメでした。学位はいらないし、四年制の大学を出ているので すから音楽以外の一般教養などを除いた専門課程を二年程度で修了できないか問い合 わせたのですが論外のようでした。

アメリカにはそういう制度がたくさんあります。USCのライバル校、UCLAも必要に応 じて単科ごとに受けられるエクステンションと呼ばれる制度が充実しています。 UCLAにはフルタイムの大学院映画音楽プログラムはありませんが、とても評価の高い エクステンションプログラムがあります。料金も数万円からと格安です。

一方、USC音楽校は大御所ジェリー・ゴールドスミス、タイタニックのジェームス・ ホーナー、アメリカン・ビューティーのトーマス・ニューマンを生み出した映画音楽 の名門校です。(インターナショナル・オフィスの主任によるとジョン・ウィリアム スもUSC出身だそうですが確認していません。誰か知っていたら教えて下さい。) UCLAとUSCの両方で学んだ作曲家も大勢います。

講師陣は
ディズニー音楽監督、ノーマン・バディ・ベイカー
「モッキンバードを殺して」のエルマー・バーンスタイン、
「エデンの東」のレオナード・ローゼンマン、
ジョン・ウィリアムスのオーケストレーター、ジミー・ブライアント、
「青春の旅立ち」のデビット・スピアー
「モダンタイムス」のデビット・ラキシン
ソサエティー・フォー・コンポーザーズ会長のリチャード・ベリス
「スピーシーズ」「ソードフィッシュ」のクリストファー・ヤング
など、まだ半分以下ですが長くなるのでこのへんにしておきます。

「映画」を除いた純粋な音楽校として、USCはアメリカ西部でトップ、全米で3〜 10位。監督、プロデューサーなど映画製作学課は全米でUCLAとトップを争っていま す。スティーブン・スピルバーグがUCLAで、ジョージ・ルーカスがUSCです。映画音 楽ではアメリカでも大学院レベルのコースを持っている学校が少ないので首位です。

これくらいが日本にいる時の私の持っている知識でした。ここで自分の音楽が通用す るのだろうか。仮に通用しても毎年そう何人も新人作曲家は必要無い。もしトップに 残れればロサンゼルスに残ってハリウッドに挑戦し続られるかもしれませんが、ダメ だったら引退かも知れない。いや、しかしUSCのパンフレットには「毎年多くの卒業 生が業界に推薦されている」と書いてあります。これは期待できるかも知れない、と 思っていました。

さて初日のガイダンス、学課長のバディ・ベイカーが挨拶で開口一番「君たちはここ に来る前にパンフレットで色々読んでいるでしょうが、あれは宣伝のための嘘で す。」これにはさすがに生徒全員ショックを受けていたようでした。さらに追い討ち をかけるように「大学にいる間は何をしても、どんなに良い曲を書いても、何も起き ません。すべては学校が終わってからです。かといってこのコースも捨てたものでは ありません。何と去年の卒業生は半数近くも音楽関係でなくとも何らかの仕事をして いる。映画の作曲家になるには運が良くて最低十年かかるところ、ある生徒は卒業後 たった5年で劇場映画の作曲をしました。彼はすごい。」

自分の大学のパンフレットに書いてあることを堂々と嘘だと言ってしまう、あなたの ほうがよほどすごいと思いました。バディ・ベイカー氏の自宅の書斎の壁にはディズ ニーからの表彰状と並んで「優秀な生徒から作風を盗め」と自分で書いてはってあり ます。しかも来客がある度に「自分が長年一線で仕事をできる秘訣はこれだ」と言っ て見せているようです。まさに堂々としたものです。アメリカ人は同じ職場で働いて いても他人の仕事は他人の仕事、組織をまとめようとはしません。組織を取りまとめ るのはマネージャー「個人」の仕事で「全員」の仕事ではないのです。したがって、 他人がパンフレットに書いたことには当然一切責任を持ちません。このころはまだそ れに気付いていませんでした。(つづく)

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