NO.34
朝川朋之
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 人生そんなに長く生きているつもりはないのだが、振り返ってみると実に多くの予期せぬ出来事が積み重なって現在に至っている。何せ26才の時にはじめてさわったハープで仕事をしている事が一番の不思議。大学時代に傾倒していたフランス音楽と、古いハリウッド映画音楽、その両方に多用されていたハープの響きに魅せられたのがそもそものきっかけで、そのスパイス的な役割にも魅力を感じた。そのころはビオラを副科で専攻していてアマオケにも顔を出したりし、伴奏をやったりウラメロを弾いたり合いの手をチョイと弾いたり・・と、ビオラの「音色」も好きだがそれと共にビオラの「やっている事」にゾクゾクする喜びを感じていた。(これは1st Violin志向の方々には理解できない心情でしょうね〜)なので、ハープもグリッサンドが時々聴こえてくるぐらいがいい。無くてもいいけど、無いと「福神漬のないカレー」「七味をかけないきつねそば」のようになる。あることによって、とても良い雰囲気になる、そんな役割が好きだ。「編曲の本」にも書いたけれど、ハープはオケ中じゃ聴こえない部分が多すぎる。あまりこれを言うとカドがたつが・・・(ハーピストの多くは、いつも「聴こえるもの」としておきたいらしい!)でもだれかがハッキリ言わないといつまでたっても進歩がない。少なくともこの何十年間、日本ではただただ音符を正確に追う部分だけがレベルアップして、その他の部分は何も変わっていないようだ。音符が無い部分の最たるモノはグリッサンドである!グリッサンドは学校じゃ習わないらしい。弦楽器のレッスンで「おしゃれなポルタメントのかけ方」を習わないのと同じだろう。でもグリッサンドの出てくる頻度を考えると、これはもうあれこれ聴いてあれこれ弾いて研究しなきゃ、って思うのが当然!「編曲の本」中の拙文には、書き屋の皆様からはご支持を頂いた(ありがとうございます)が、ハ−プ関係からはフタをされてしまった(ようだ)。悲しい。あれでもけっこうやんわり書いたのに。例えば使い古されたミュージカルのパート譜を見ると、みんながDmaj7を奏でている中ハープがDdimのグリッサンドをしている!(Ddimのペダルのメモが鉛筆で書いてある)とか、そういう信じがたい事例は数限りない。なぜ??結局ハープは聴こえていないのだ!でもよくDdimのグリッサンドしてたよなあ、何十回も。録音の場合は聴こえるので大変。ペダルをノイズなしでチェンジするにはかなり腿と腹の筋肉を使う。グリッサンドで皮がむけ、むけてないところとにできた皮の段差は、つめ磨きで皮をけずってなだらかな坂にする。ハ長調でみんなが気持ちよくドの音で終止するところで一人だけシのシャープを弾いて、その気持ち悪さもものともぜず平然とこなす。弦が白熱する部分にユニゾンの動きがあるからちょっと高めに調弦、あっでもその直後にグロッケンとユニゾンだから440か〜?、などなど、あの硬いピアノイスに何時間も座って黙々と考え、やり続けるには体力・気力勝負というところ。もちろん編曲だって体力・気力勝負、なんだってプロの仕事はそうだけれど。スタジオで演奏側になってすごくショックだったのは、時間給!という事。延長になるとギャラもUP!ダビングすると2倍??当然の事だが、書く側から演奏者になった私には信じられない夢のような事実。そして、演奏者の大多数は、書き屋さんは皆2時間ドラマ1本ウン百万もらっていると誤解している事(ウン百万もらっている方、ゴメンナサイ)。さらに驚いたのは、「片耳イヤホン」と「パート譜」。この2つのものほど、非音楽的なものはない。愕然とした。こんなにまわりの出来事がわからないとは!・・・でっかい「スピーカー」の前に座って「スコア」を開いて俯瞰の状況で音楽に臨んでいる環境が空高く飛ぶ鳥としたら、この2つであくせく働くさまは、まるでアリだ。この状況下で音楽の全容を把握しながら演奏するには、やはりかなりの経験、想像力、創造力が必要だ。
 話は変わって、体を動かしていないと機嫌が悪くなる私は、長年ダンス類をやっていて、タップダンスが一番続いている。それは完全に仕事と切り離していたけれど、このところ舞踊音楽について考え始めた。ダンサーとミュージシャンとの間の深〜い溝もなんとかならないかと思っている。例えば彼らの多くは8カウントであり2小節単位で物事が進む。つまり4拍子の曲での偶数小節の3拍目は彼らにとっての7拍目となる。音楽のとらえ方が我々とは異なる感が強い。ダンスナンバーとして書かれたものでも、音楽的には素晴らしいが、舞踊家の心を刺激しない、というものは存在し、それは、こみいっているから、スカスカの音楽だから、とかそんな単純なものではないようだ。ダンサーは、踊れる音楽を求めて日々CDを買いあさり、音楽談義に花を咲かせる。けっこう専門的である。が、その逆はあるだろうか?ダンスの振り付けについて研究熟知し、ダンサーや振付師と共に作り上げられる音楽はとても少ない。先般、バレエの発表会でチャイコフスキーのくるみ割り人形が上演された時、ピエロ役になりステージ上でハープも弾いた。またタップダンサーと共にタップを踏みながらマリンバを弾いたり、ピアノとステップをできる限りシンクロさせた編曲をいっしょに作り上げ、4月にはタップのイベントにも出演するが、そういった活動はいろいろな考えの中でのチャレンジでもある。ダンサーの願い、ミュージシャンの思い、それぞれを通訳するような機会にこれから沢山出会えたら、趣味も生かせるし、人生またまた楽しそうだ!

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株式会社フェイス音楽出版
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